【ヨツユビハリネズミの疥癬に対しサロラネルを用いて治療を行ったケースレポート】

Use of sarolaner in African hedgehogs (Atelerix albiventris) infested with Caparinia tripilis

DOI: 10.1053/j.jepm.2020.06.001

はじめに

日本でも飼育頭数が多いヨツユビハリネズミ(Atelerix albiventris)の外部寄生虫として最も一般的なのは ハリネズミキュウセンダニ(Caparinia tripilis) です。

C.tripilisはもともと、国外で動物園展示動物や飼育動物のハリネズミから検出されるものでした。2016年に都内で飼育されているヨツユビハリネズミから検出されたダニ類に関する報告(田中ら,JVM Vol.69 No.6,443-445)で、同じくC.tripilisが同定されていて、国内で流通しているヨツユビハリネズミから検出されるダニ類については、C.tripilisが主流であると考えられています。

ハリネズミでよく検出されるダニはCapariniaの他に、Sarcoptes, Notoedres, Otodectes, Chorioptesなどがあります。またニキビダニ(Demodex. sp)による皮ふ病も報告されていて、ヨツユビハリネズミではD. canisが原因として同定されています。

C.tripilisによる感染は頭部、耳介、背部および外耳道などに激しい痒み、乾燥した鱗屑、耳介辺縁の苔癬化を引き起こします。また、発症にはストレス、ホルモンの変化、免疫系の機能不全などが契機となると考えられています。

既存の治療法として

  • アミトラズ散布
  • 10%イミダクロプリド + 1.0% モキシデクチンの複合スポットオン製剤
  • イベルメクチン 0.4 mg/kgの注射とその後 0.5 mg/kg を14日と28日に経口投与
  • イベルメクチンの局所投与200μL (21日間隔で投与)
  • フルララネルの経口投与

などの報告があります。

今回はヨツユビハリネズミの疥癬に対しサロラネルを用いて治療を行ったケースレポートをご紹介します。

【Case Report】

症例情報

症例1

351g 9ヶ月齢 雄のヨツユビハリネズミ
顔面、腹部および肛門周囲に鱗屑、掻痒、棘の脱落および全身の紅斑を認めました。

症例2

350g 9ヶ月齢 雌のヨツユビハリネズミ(症例1と同居)
症例1と同時に全身の紅斑、鱗屑、かゆみ、棘の脱落、体側に痂皮を認めました。

2症例ともC.tripilisが検出され、ヨツユビハリネズミの疥癬と診断されました。

治療

サロラネル(2 mg/kg)を1回経口投与しました。

評価

1,7,14,30,60日目に病変,そう痒の程度,寄生虫の有無を評価し,治療効果を検討しました。

結果

投与後1日目から30日目までは2症例とも病変の重症度が低下しました。

投与後30日目から60日目には病変が認められなくなりました。

ダニの検出率と痒みは、1日目から15日目にかけて減少し、60日間の追跡調査でも再発は認められませんでした。

評価期間中、2症例とも体重の増加が認められました。

結論

ヨツユビハリネズミ2頭のC.tripilis感染に対して、サロラネル2 mg/kgの単回経口投与は、ダニの駆除、かゆみ、皮ふ病変に対して有効だったといえます。
有害事象は観察されませんでした。

考察

イソキサゾリン系駆虫薬は犬猫のみでなく、他の動物においても様々な寄生虫に対する駆虫効果をもつことがだんだん報告されてきています。中でも今回、国内でも人気のヨツユビハリネズミの疥癬に対し、サロラネルを用いて治療した報告を取り上げてみました。

そのほかヨツユビハリネズミにイソキサゾリン系駆虫薬を用いたものでは、

・10ヶ月齢、体重184 gのヨツユビハリネズミのC.tripilis感染に15 mg/kgのフルララネルを単回経口投与し、21日以内に効果を示した報告(DOI:10.1111/vde.12465)

Demodex canis感染のヨツユビハリネズミ(600g、4歳)に対して2.5mg/kgアフォキソラネルとミルべマイシンの合剤を単回投与し、7日後にはダニ数が0、30日後には皮膚症状が治癒した報告(DOI:10.1053/j.jepm.2018.06.007)

がありました。今回取り上げた報告はいずれも有害事象がなく良好な治療成績を示していますが、あくまでケースリポートであり、有害事象や投与量などの更なる情報の蓄積が待たれます。

イソキサゾリン系の駆虫薬の登場は、外部寄生虫症に対し大きな革命を起こすものかもしれません。しっかりと治療できるようになってきたからこそ、きちんと診断できるようにもしておきたいですね。