The clinical use of cannabidiol and cannabidiolic acid-rich hemp in veterinary medicine and lessons from human medicine カンナビジオールと、カンナビジオール酸が豊富な大麻の獣医療における臨床的な活用方法と人医療からの学び

DOI:https://doi.org/10.2460/javma.23.02.0064

要約

 エンドカンナビノイドシステム(ECS)は脳や他の生理学的機能、例えば不安、痛み、代謝的な制御、骨成長などと同様に、ニューロン発達や、シナプス可塑性、免疫に関する恒常性に関与している統合的な神経調整システムです。大麻は外因性のカンナビノイドを含む植物です。外因性カンナビノイドは酵素阻害剤または受容体媒介相互作用としてECS内で潜在的に深く相互作用を持っている可能性があります。カンナビノイド受容体の活性化は細胞内機能と関与する様々な細胞内シグナル伝達プロセスを引き起こしますが、それらの相互作用は、関連する受容体とそれぞれのカンナビノイドとの親和性が異なるため多様です。

 外因性カンナビノイドの中でも、カンナビジオール(CBD)は、in vitroとin vivoモデルで使用され、その潜在的な抗腫瘍作用、抗血管新生作用、抗炎症作用、抗発作作用により注目されています。犬における科学的エビデンスは限られていますが、CBDを他の治療方法と併用することで、さまざまな疾患に効果が期待できるという期待を表しています。

 このレビューは、内因性、外因性カンナビノイド、ECS、それらの分子メカニズム、獣医療での潜在的な副作用について簡単に触れた後、発作、不安、変形性関節炎、アトピー性皮膚炎におけるCBDの効能の、現在の科学的研究に主に焦点を当てます。カンナビノイドの薬理学と薬物動態は、2023年5月のAJVR、SchwarkとWakshlag 著のCurrents in One Healthで述べられます。

エンドカンナビノイドシステム:カンナビノイド受容体との関連

 エンドカンナビノイド(内因性のカンナビノイド{ECs})、エンドカンナビノイド受容体、ECsにより活性化される他の様々な受容体、ECsを合成・分解する酵素から、エンドカンナビノイドシステム(ECS)は構成されます。ECSは、脳や他の生理学的機能と同様に、ニューロンの発達、シナプス可塑性、免疫に関する恒常性に関与している統合的な神経調整システムです。エンドカンナビノイドは主なものに、2-アラキドノイルグリセロールとアラキドノイルエタノールアミド(アナンダミド)があり、どちらも今までによく研究されてきています。CNSにおいて、ECsはニューロンのシナプス後膜を通して分泌され、シナプス前受容体―エンドカンナビノイド受容体1と2(CB1とCB2受容体)―に作用し、K⁺の細胞内流入に伴う過分極を引き起こします。これによって、不安、痛み、代謝的な制御、免疫、骨成長などの、多様な生物学的および生理学的なプロセスを促進できる、抑制性神経伝達物質の調整が引き起こされます。加えて、ECsはCB受容体への異なる親和性を持っており、酵素(脂肪酸加水分解およびモノアシルグリセロールリパーゼ)による急速な代謝によりそれらの半減期は短くなります。

 CB1受容体は主にCNSの細胞上に発現します。CB2受容体はメインでは白血球上に発現しますが、特に変性や、炎症や、不安などのような病的状態の間はニューロン上にも発現し、程度は少ないですが、グリア細胞上にも発現します。また脳のニューロンにおける表現レベルはCB1受容体よりも少ないです。CB2受容体はカンナビジオールの効能である抗炎症作用や免疫調整性において重要な役割を果たすことが示されています。さらにカンナビジオールの免疫抑制効果に由来する、アポトーシス誘導を引き起こす可能性が示唆されています。ECSとカンナビジオールの間の相互作用は、以下の各臨床応用セクションでより詳細に議論されています。

植物由来カンナビジオール

 説明された通り、ECSは神経系の恒常性において大きな影響を及ぼします。Cannabis sativa-(麻) または Cannabis indica-(インド麻)由来のカンナビノイドは、酵素阻害剤あるいは受容体媒介相互作用として、このシステムの中で深く相互作用をもち、多くの異なる病態に影響を与える可能性があります。興味のあるカンナビノイドを完全に理解するためには、大麻由来のカンナビノイドの基本的な理解が必要です。大麻は400以上もの異なるフラボノイド、カンナビノイド、テルペンを作ることができ、その多くは生物学的な影響を与える可能性があります。植物内でのカンナビノイドの生合成は、広範囲にわたる育種と、その植物内での合成酵素遺伝子の複製により高度に行われ、開花部分の根を生成します。

 典型的な大麻植物からのカンナビノイド合成は、オリーブ酸前駆体とゲラニル二リン酸と、カンナビゲロール酸(CBGA)と呼ばれるすべてのカンナビノイドの骨格分子を生成する高度に表現されたカンナビノイド合成酵素活性から生じます。特定の大麻の品種に応じて、他のカンナビノイドの生合成は変化する可能性があります。ただし娯楽目的で使用される多くの大麻の品種はテトラヒドロカンナビノール酸を生成します。この分子は脱炭酸されると、デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(THC)となり、主に前のセクションで言及されたCB1受容体の効果によって、向精神薬作用を起こします。カンナビジオール(CBD)への興味が高まるにつれて、THCの産生が0.3%未満の大麻の品種が近年より認知度を上げてきました。その植物の中で生成される大麻由来のカンナビノイドは、テトラヒドロカンナビノール酸(THCA)ではなく、主にカンナビジオール酸(CBDA)です。もう一つのあまり知られていない、研究されているカンナビノイドは、カンナビクロメン酸(CBCA)を作る合成酵素活性を通じて作られます。この特別なカンナビノイドを作る品種は開発されていないですが、獣医療内マーケットでは多くの大麻由来生成物のなかに依然として含まれています。

 これらの大部分のカンナビノイドにおける天然の酸性形態は、多くの製品の中には見られません。これは、これらの酸の安定性の欠如によるとの報告があります。高温あるいは化学的に過酷な抽出下では急速な脱炭酸が発生し、CBDやTHCと呼ばれる、天然のカンナビノイドが生成されます。そうとは言え、これらの酸性カンナビノイドが製品中で非常に安定していることと、それら自身が薬物動態的特性を持っている可能性があることを示唆する獣医学的薬物動態研究が今のデータであります。

 人医療と獣医療ではCBDにフォーカスが当てられてきました。CBDは、非向精神性カンナビノイドの中でもっともよく研究されている市販されている主要なカンナビノイドなためです。CBDとCBDAは両方とも多くの製品の中に、他の微量カンナビノイドと共に獣医療内で市販されている大麻由来製品に含まれています。製品中のCBD/CBDAの濃度が高いことを考えると、下記のセクションで議論される生物学的効果は、主にCBD/CBDAに由来すると考えられます。しかしながらその製品中に含まれる他のカンナビノイドやテルペンが、吸収促進や代謝変化を起こすような、いわゆる「アントラージュ効果」が起こる可能性は否定できません。この「アントラージュ効果」は、大麻植物全体を抽出すると時折、より低用量でありながら、純粋なCBD分離物の用量と同じ効果が得られる、ということを示唆する数少ないデータに由来します。

エンドカンナビノイドシステム:潜在的標的

 上記までのセクションで述べられた通り、カンナビノイドは植物から抽出、分離される天然発生化合物の1つです。その中で最も豊富なものがTHC、CBDとカンナビゲロール(CBG)であり、これはCBDとカンナビクロメン(CBC)の前駆体です。カンナビノイドはin vivoとin vitroのモデルを用いて、抗腫瘍作用、抗血管新生作用、抗炎症作用、抗発作作用を持ちうるということが多くの研究で示されています。

 カンナビノイドの作用機序はいまだ完全には解明されていません。THC、CBD、他の植物構成成分と、受容体への結合には非常に数多くの経路が誘発されると考えられています。その経路には、アポトーシスやオートファジー経路を誘導するマイトジェン活性化プロテインキナーゼ経路や、小胞体ストレスが関与する経路や、インフラマソーム媒介シグナル伝達経路があります。カンナビノイドはCB1やCB2受容体のような、 G 共役タンパク質受容体のスーパーファミリーと結合できます。それら受容体の活性化は細胞機能に関与する様々な細胞内シグナル伝達経路を引き起こしますが、それぞれのカンナビノイドの関連受容体への異なる親和性によって、その相互作用は多様です。例えば、THCは他の化合物よりもCB1、CB2受容体に対して高い親和性を示し、直接相互作用を示します。一方でCBDは、両方の受容体に対して最小限のアゴニストであり、CB1受容体に対して間接的なネガティブアロステリック調整を介して作用します。それゆえに、バイオアベイラビリティ、生理活性、忍容性は各カンナビノイドによって多様です。重要なことはCBD、CBGとおそらく他の構成物質も、THCの向精神薬経路は欠けているということです。これは、CB1とCB2受容体に対する親和性が低いことで説明される可能性があります。

発作管理の臨床応用

 CBDの抗けいれん作用は、過去10年間において、遺伝的症候群で難治性の発作を持つ人を対象として、非盲検およびプラセボ対照ランダム化臨床試験で証明されてきました。

エビデンスに基づいて、the FDA、European Medicines Agency、National Institute for Health、Care Excellenceは高度に精製されたCBD(商品名Epidiolex)を承認しています。ただし、the European Medicines AgencyとNational Institute for HealthとCare Excellenceでは、ドラベ症候群(幼児期に焦点性あるいは全般性けいれん発作を引き起こす、いくつかの進行性ミオクローヌスてんかんとして知られている、遺伝的なてんかん性脳症)と、レノックス・ガストー症候群(主に幼児期や早期幼少期に起こる、脱力発作、強直発作、アブセンス発作などの異なる発作のタイプがあるいくつかのてんかん性脳症)の治療のためのクロバザムの補助的な薬として使用することが規定されています。

 これまで、CBDの抗発作作用の機序は人医療でも獣医療でも未だ完全には解明されていません。しかしながらCB1、CB2エンドカンナビノイド受容体がひとつの役割を果たしていると考えられています。実験研究を基に、ナトリウムとカルシウムの流入の調節、細胞内カルシウム濃度の減少、アデノシン再吸収の阻害といった、いくつかの可能性のある機序が注目を集めています。

まず、バニロイド受容体1(transient receptor potential vanilloid-1、TRPV1)は、カルシウムを優先する非選択的陽イオンチャネルで、侵害刺激、熱、有害な天然物質(例えばカプサイシン)によって活性化されます。それによりナトリウムとカルシウムの流入が調節され、結果としてシナプス活動が増加し、CBDの抗発作作用に関与していると考えられています。TRPV1は大脳皮質や、大脳辺縁系システム、視床下部のようないくつかの脳領域に発現しています。CBDはTRPV1へのアゴニストとして活動し、減感作、制限、ダウンレギュレーションによってTRPV1駆動シグナル伝達経路の活動を減少させます。しかしながら、CBDの抗けいれん作用の機序におけるTRPV1の関与は、ドラベ症候群の遺伝的マウスモデルの近年の実験研究の結果をみるに、未だ議論中です。

 次に、シナプス前小胞での細胞内カルシウム濃度の増加は神経伝達物質の放出を促し、結果として、興奮性あるいは抑制性活動のどちらかを引き起こす神経興奮性の調節が起こります。CBDはオーファンGタンパク質共役型受容体55(GPR55)のアンタゴニストとして作用します。GPR55は細胞内カルシウム濃度の増加と、活性化された単球による炎症誘発性サイトカイン(IL-12、TNF-α)産生物の増加を担っています。GPR55受容体は発作管理の潜在的な薬理学的ターゲットの代表です。CBDはGPR55の機能を調節し、遺伝子表現パターンを変化させ得ると考えられています。

 3つめに、アデノシンは内因性抗発作物質としてよく知られていて、発作活動を終了するA1とA2受容体のアゴニストです。したがってアデノシンの細胞外レベルが低ければ、けいれん誘発性の活動が起こる可能性があります。言い換えると、その濃度を上げることは抗けいれん作用をもたらす可能性があります。実験エビデンスは、CBDはプリンが細胞内に取り込まれるのを抑制することによって細胞外アデノシン濃度を増加させる効果がある可能性を示しています。

 前述の可能性のある標的に加えて、GABA作動性調節、CB1受容体を介したエンドカンナビノイドシグナル伝達経路、ミトコンドリアCB1受容体、大コンダクタンスカルシウム活性化カリウムチャネル、ラパマイシンシグナル伝達経路の機械的標的、電位依存性ナトリウムチャネル、もまた、エビデンスは希少ですが、CBDの潜在的な標的だと考えられています。総括して、CBDの抗発作作用は最初に議論された標的、あるいは未知の標的に由来する複数の機序の相互作用に起因している可能性があります。

 CBDの抗発作作用はげっ歯類の実験と同様に人の治験で十分に実証されています。それにより、治療抵抗性てんかんや、ドラベ症候群やレノックス・ガストー症候群などの発達性脳症やてんかん性脳症に対する抗発作作用が明らかになりました。加えて、げっ歯類の実験研究は、急性または慢性マウスモデルと遺伝的欠損てんかんラットにおける、非けいれん性発作を含む焦点発作と全般発作に対するCBDの効果を示しました。

 同様に、特発性てんかんの犬を対象とした臨床試験も実施されています。ランダム化盲検クロスオーバー臨床試験が1つあり、そこではTierⅠとⅡの信頼レベルの特発性てんかんの犬が大麻から抽出した豊富なCBD/CBDAを含むごま油製品(2mg/kg、q12h)か、プラセボに割り当てられ、3カ月後にクロスオーバーされました。発作の頻度と、発作が出た日数は、プラセボに比べてCBD/CBDA治療期間に明らかに減少しました。治療期間内では、43%(6/14頭)の犬が発作の頻度の50%以上の減少を成し遂げ、治療反応ありとみなされました。一方でプラセボ期間では治療反応がある犬はいませんでした。

 もう一つのランダム化盲検対照臨床試験では、TeirⅡの信頼レベルの治療抵抗性の特発性てんかんの犬が、従来の抗てんかん薬に追加して、ランダムにCBD注入オイルか、プラセボを投与されるように振り分けられました。CBD注入オイルは毎12時間おきに2.5mg/kgで投与されました。結果としては、CBD群では月間平均発作頻度が33%減少したことを示しました。一方で、プラセボ群では変化は見られませんでした。興味深いことに、CBDの血漿濃度と発作頻度の減少率の間には負の相関関係が示されました。2つの研究にもかかわらず、獣医学の中で発作管理のCBDの有効性と、CBDが現在の治療プロトコルに当てはまるかどうか、のさらなる理解のためにより大規模なランダム化臨床試験が必要です。

 てんかん発作管理におけるTHCの治療的な効果は、人を対象とした実験的および臨床的研究において確実に一貫した裏付けがなされていないということは注目すべきポイントです。それらの結果に矛盾があることから、人のてんかん患者に対してTHCを臨床的に使用することは現在のところ推奨されていません。さらに言えば、3 ~4%のTHCを含有する高濃度のCBDの治療を受けている小児の患者において、てんかん発作、運動失調、行動変化の悪化が認められています。同様に犬に過剰なTHCを摂取させると、一般的に中毒を引き起こし、行動変化、無気力、振戦、運動失調、消化器症状(嘔吐、下痢)、自律神経症状(低体温、徐脈)として現れます。

不安に対する臨床応用

 げっ歯類の実験研究はCBDの潜在的な抗不安作用と抗うつ作用と同様に、認知機能不全を伴う臨床徴候に効果があることを明らかにしています。CBDの抗不安作用は、投与量範囲がラットで2.5~10mg/kg、マウスで20mg/kgのときに認められます。しかしながらある異なる研究では、10mg/kgのCBDの腹腔内注射が不安を引き起こすと示しています。この実験研究の矛盾は、CBDの二相性(低用量での抗不安作用と高用量での向不安作用)で説明される可能性があります。さらにCBDの投与間隔(急性VS慢性)も矛盾の原因の可能性があります。CBDの急性の抗不安薬作用はラットと人の両方で報告があります。一方で14日間の慢性的な投与は効果を示さず、さらにラットでは不安誘発作用を示しました。

 人では、CBDの単独療法の投与量400-600㎎で、全般性社会不安障害患者の不安が大きく減少しました。一方不安症状への慢性的なCBDの効果は未だ十分には研究されていません。しかしながら社会不安やパニック障害を持つ患者の対象臨床試験は、補助的な薬としてのCBDの大きな効果は認められませんでした。近年の報告されたメタ分析ではカンナビノイドが抗不安作用を持つことを明らかにされています。しかしその研究の結論は、公衆バイアス、小さいサンプル母集団、矛盾ある結果によってゆがめられている可能性があります。

 獣医療においてCBDの抗不安作用の科学的エビデンスは未だ限られていますが、アンケートによると、CBDを犬に与えたペットの飼い主の約半数が、さまざまなCBD投与量において、かれらの犬の恐怖や不安が減ったと気づきました。加えて、約3.75mg/kgのCBDを45日間与えていた保護犬において人間に対する攻撃性の減少が現れましたが、他のストレス関連行動の改善はありませんでした。もう一つ別の研究では、花火の騒音により恐怖が引き起こされるモデルを用いた犬におけるCBDの抗不安効果を示すことができませんでした。この研究では犬は1.4mg/kg/dayのCBDを7日間投与されていましたが、コントロール群と比較して、騒音によって引き起こされる心拍数や恐怖行動に改善がありませんでした。

 CBDの抗不安作用の機序に関しては、CBDは恐怖かつ/あるいは不安が誘導する行動を制御している数多くの受容体を調節できることが提案されています。しかしその機序は未だ完全には解明されていません。以前議論したように、CBDはCB1受容体と間接的なアンタゴニストとして相互作用しています。そしてそれは、神経内分泌ストレス反応のネガティブフィードバックを動員することで恐怖の改善や、慢性的なストレスの低下に寄与している可能性があります。あるマウス実験で、5-HT1A媒介(つまりセロトニン1A受容体)神経伝達は、細胞内シグナル伝達経路かつ/あるいは5-HT1A受容体を仲介するアロステリック相互作用を遮断することによってCBDの抗不安作用に不可欠である可能性を示しました。5-HT1A受容体の遺伝子シークエンスにおけるある研究では、犬のアミノ酸組成が人 (92% 相同性) およびマウス (89% 相同性) のアミノ酸組成と同等であり、いくつかの領域では100%の相同性を示すことを明らかにしました。

 さらに、以前にも議論したように、CBDの抗不安作用はベル型の用量効果を示す可能性があります。これは、少なくとも部分的には、脳のTRPV1受容体の活性化によって説明される可能性があります。TRPV1 受容体は、ストレスと防御反応の制御に関連するいくつかの脳領域 (海馬、前頭前皮質、背外側水道周囲灰白質 [dLPAG] など) に存在します。いくつかの研究で、TRPV1受容体の活性化は、CNSにおいて主要な興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸放出を促進することを示唆しています。dLPAG におけるその受容体の拮抗作用により、抗不安反応が明らかになりました。それゆえに、高用量のCBDまたはエンドカンナビノイドはdLPAGのTRPV1受容体を活性化し、グルタミン酸神経伝達を引き起こし、結果として不安を増加させる可能性があります。

変形性関節症への臨床応用

 以前のセクションで解説した通り、ECSの受容体の生物学的アウトラインは疼痛反応の伝達の役割を果たしている可能性があり、同様に慢性的な疼痛でも同じ役割をしていると考えられます。人においてCBDを豊富に含んだ大麻を変形性関節症患者に対して使用することは、製品や分離株の多様性と同様に、人の試験におけるCBDの吸収量が制限されていることから、現在のところ特に確立されていません。犬においては、2mg/kgの投与量で最大血清濃度が100ng/mLを超えますが、一方人において同用量を使用しても約10ng/mLに届きません。そのため人では、Epidiolexで人のCBD単独使用での認証されている現在の用量よりも非常に高用量の経口投与が必要です。げっ歯類モデルで、CBDやCBDAが疼痛反応の軽減効果をもつことが示唆されています。しかしそれら研究の大部分は肝代謝を迂回して高用量の腹腔内投与でカンナビノイドを投与していて、人医療や獣医療では実現不可能です。人においては疼痛軽減にたいするCBDの使用についての変形性関節症の文献は数が少ないです。一方で、筋硬化症に関連する神経障害の疼痛に対する文献はもう少しあり、いくらかの効果を示しています。人の関節炎では、大部分の研究が本質的に観察的なものであるため、薬物動態に基づく投与量は特に最適化されていないようです。

 犬においてはCBDを豊富に含んだ製品の経口投与の効果を証明する4つのランダム化プラセボ盲検対照研究があります。1つ目の研究では、CBDとCBDAが同量に混合されているCBD/CBDAを豊富に含んだ大麻製品が使用され、クロスオーバープラセボ盲検研究で各群で 4 週間にわたって犬に投与されました。The Canine Brief Pain Inventory (CBPI) を用いて、主観的測定の検証に基づき、臨床的利点が示されました。飼育者はそれらの調査を治療の2週目と4週目に行われ、CBPIの調査では平均20ポイント減少しました。同様に、活動性を計測するためにthe Hudson Activity scaleを活用した時、約20ポイントの増加が見られました。治療群のベースラインとの平均差は、2 週間目と 4 週間目で有意でした。この研究で使用された投与量は2mg/kgを12時間ごとで、プラセボ群でも使用していたオリーブオイルベースでした。

 2つ目の研究は、あるCBDが豊富な大麻製品を使用した犬の、より小規模なコホート研究を利用しました。5頭の犬を4群つくり、それぞれ、プラセボの中鎖脂肪酸(MCT)オイル、MCTベースの中に20または50mg/日のCBD単離物、1カプセルに20mgのCBDが豊富な大麻製品、を投与しました。試験はthe Helsinki Pain Index を利用して30日間行われ、MCT中に50mg/日のCBD豊富な大麻製品で治療した群と、1カプセルに20mg製品を含有しているもので治療した群で、疼痛指数の大幅な低下が示されました。

 3つ目のランダム化プラセボ対照研究では、12週間の試験中に、フィロコキシブまたは低用量プレドニゾンと、補助治療としてアミトリプチリンとガバペンで管理されている臨床的に関節炎を呈している犬で調査されました。9頭の犬ではCBDが豊富な大麻製品は、MCTベースにして2mg/kgを12時間おきに、頬ポケットに入れることで経粘膜投与され、コントロール群の12頭の犬はMCTオイルだけを投与されました。投与された製品を、犬は自然と飲み込むため、これは慎重に解釈される必要があります。犬たちは治療の0、1、2、4、12週間目でCBPI評価を用いて評価されました。CPBIスコアリングの大幅な低下は、コントロール群と比較して、0、1、2、4週目治療群で観察されましたが、12週目では観察されませんでした。そして、ベースラインからの疼痛スコアの有意な差が、治療群では時間と共に観察されましたが、対照群では観察されませんでした。

 4つ目の研究はランダム化プラセボ対照クロスオーバー研究で、6週間の治療期間内に23頭の犬はプラセボ群で大麻種オイルだけを投与され、治療群では2.5mg/kgのCBD豊富な大麻製品を大麻種オイルで投与しました。3、6、9、12週間目に測定された結果は、主観的CBPI、the Liverpool Osteoarthritis in Dogs アンケート、総体重負荷の評価、体重負荷のパーセンテージを用いた初期のスクリーニングと比較されました。ほぼすべての主観的、客観的観察において、CBDが豊富な製品での治療期間に改善が認められました。しかしながらプラセボ期間においても、CBPIとthe Liverpool Osteoarthritis in Dogs アンケートの一部で改善が認められました。そして治療時間Xの効果は各群の間で有意な差は見出されませんでした。全体的にネガティブな結果ですが、プラセボ群の犬の血中にTHCが検出されたことと、大麻種オイルと他のオイルベース間のオメガ3脂肪酸の違いがこれらの結果に影響を及ぼしている可能性を指摘する必要があります。

 疼痛管理に着目して、変形性関節症の疼痛は、急性の外科的疼痛の機序とは異なる機序で起きると時にみなされているため、CBDが豊富な大麻製品の使用はこの点から制限されてきました。近年の研究では、獣医師による痛みと可動性の評価と、術後 2 週間と 4 週間の飼い主の CBPI 調査を利用して、脛骨高平部水平骨切り術の術後最初の1カ月間、CBD/CBDAの2mg/kgを12時間おきに投与することを調査しました。この研究では、プラセボ群と治療群の両方で時間の経過とともに同じ改善を示し、CBD/CBDAを利用したことによる獣医師と飼い主の評価の改善は示されませんでした。興味深いことに、活動を制限するためのトラゾドンの使用は、術後2週間時点ではプラセボ群よりも治療群では必要性が低かったです。しかしながらある最近の報告で、同製品の高用量の5mg/kgのCBD/CBDAの使用が、椎間板の疾患の外科術後の疼痛管理で実証されました。そこでは、獣医師のブラインド評価をベースとした術後疼痛スコアがプラセボ群と比較して低いことを示唆しました。術後疼痛のためにCBD/CBDAが利用し得るのかどうかと、どのぐらいの用量が必要なのかどうかは、まだ不明です。

アトピー性皮膚炎に対する臨床応用

 まだ初期の段階ですが、カンナビノイドがアレルギー性皮膚炎に影響を与えるという可能性は、以前のセクションで概要として説明した掻痒の神経学的認識に由来しており、類似した疼痛と発作の伝達経路の神経伝達干渉と同様に、CBDとCBDAの抗炎症作用は類似した神経伝達経路干渉の可能性があります。それらは炎症性細胞の中でペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体を活性化させ、アトピー性皮膚炎の犬の皮膚または他のカンナビノイド標的の皮膚の中で、アップレギュレーションされているサイトカイン生成物を軽減します。近年のプラセボ盲検研究では4週間、17頭の犬で2mg/kgのCBD/CBDA豊富な大麻製品を12時間おきに使用し、12頭の犬でプラセボのゴマ油を投与して行われました。the Canine Atopic Dermatitis Scoring Indexを利用した獣医師の主観的な炎症の計測と、飼い主による垂直方向の掻痒の計測が行われ、CBD/CBDA豊富な治療を受けた群の犬は、平均2ポイントの低下と約30%の掻痒の解消の達成を伴う、有意な掻痒の減少を示しました。これは2、4週間目のプラセボ群とは大きく異なりました。興味深いことに、the Canine Atopic Dermatitis Scoring Indexにおいても、サイトカインプロファイリング(インターロイキン-31、インターロイキン-34、単球走化性タンパク1)においても、治療0から4週間目の測定では変化がなく、それは、カンナビノイドの治療が炎症反応を防御するというよりは、神経知覚を変更させるようなものであることを示唆しています。驚くべきことに、同様の用量での犬の正常な健康な活動を加速度計のデータを用いて調べたある研究では、犬小屋にいる犬において活動性における意味のある重要な変更は、「かゆみ」行動のみであることが示され、それは掻痒活動の変化を示唆します。Loewingerらによる研究での免疫学的変化の欠如と一致して、Morrisらによるある研究では、同量(2.5mg/kg、12時間おき)で投薬し、キーホールリーペット抗原の全身性の液性免疫を追跡し、CBDは液性免疫にポジティブにもネガティブにも影響しないということを示しました。

研究全体における有害事象

 CBDを使用することによる有害事象は一般的には報告されませんが、一般的に時々の傾眠傾向と、行動の問題はあります。犬の研究全体を通じてCBD製品による治療継続を中断するほどの深刻ではありません。多くの犬の臨床研究でCBCと血清生化学が追跡されています。2~4mg/kg/日でCBD製品を慢性的に利用し、3~6カ月の安全研究では、CBCの変化はなく、複数の犬で主に観察される血清ALPの上昇はありましたが、安全な投与が示されました。この上昇は、Schwark および Wakshlag 著、AJVR、2023 年 5 月の関連書籍 Currents in One Health でさらに詳しく説明されていますが、肝臓でのカンナビノイド代謝とは潜在的に異なるということと、シトクロムp450代謝の潜在的なアップレギュレーションの可能性を示唆しています。臨床的に、CBD使用と同時にALPが上昇したことはGGTとビリルビンのような他の肝臓関連パラメーターの上昇は伴わなかったです。したがって多くの場合この自然なALPの上昇は無害です。ただし、特に薬物の影響なのか、副腎皮質機能亢進症のような内分泌の影響または疾患なのかどうかを区別するために、日常的な血液検査でモニタリングする必要があります。

結論

カンナビノイド、特にCBD製品の利用は、獣医療において初期段階であり、てんかん発作管理、変形性関節症関連の疼痛、アトピー性皮膚炎を含むさまざまな疾患に対する他の治療法との併用について、慎重ながらも楽観的にみられています。CBD製品を状況的な、または慢性的な犬の不安に対する治療として利用することに関しては現在のところ有用なエビデンスはありません。薬の相互作用は獣医学種において解明は不完全ですが、現在抗発作薬は犬において大きな懸念はないようだ、とするエビデンスが現れています。それら臨床研究のすべてが犬を用いた試験であり、猫、馬、など他の伴侶動物種類ではこのレビューを書いている現在のところ、臨床的利益を示すような臨床試験が存在しないという点もまた強調しなければなりません。

皮ふキャンポイント

✓カンナビジオール(CBD)は外因性カンナビノイドです。エンドカンナビノイド受容体は2つあり(CB1とCB2受容体)、主にCB1受容体はCNS細胞上に発現し、CB2受容体は白血球上に発現しています。CB2受容体はカンナビジオールの効能である抗炎症作用や免疫調整性において重要な役割を果たすことが示されています。

✓カンナビノイドは麻、大麻から生成され、CBDはデルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(THC)の含有量が少ない非向精神性カンナビノイドです。作用機序は完全には解明されていません。

✓人においてCBDの抗けいれん作用は認められていて、補助治療として使用承認されています(商品名Epidiolex)。犬においても臨床試験があり肯定的な結果です。

✓CBDの抗不安作用は5-HT1A媒介神経伝達経路や脳のTRPV1受容体と関与している可能性があります。

✓人と犬ではCBDの吸収率が異なり、犬の方が高いです。疼痛のためのCBD/CBDA利用は理論上効果がありそうですがまだ不明です。

✓犬のアトピー性皮膚炎へのカンナビノイドの治療は、炎症反応を防御するというよりは、神経知覚を変更させるようなものであることを示唆しています。

✓犬のアトピー性皮膚炎では心因的要因が関与している場合もあります。CBDの抗不安作用と痒みの神経知覚変更の効果は、現行治療の補助として今後期待されます。

✓猫や、犬でのさらなる臨床報告を今後も要チェックです。